南座公演の「勧進帳」は、中堅・若手がいま、与えられている課題をど
のようにこえていくかを確かめることのできた舞台であった。彼らのうちにみなぎる力と、
挑戦への思いが、この一期一会の舞台を作り出した。
この3つの物語
の出会いの要は、弁慶である。弁慶の性格にリアリティが感じられること、一見無理な設
定でも、それを納得させるなにかを感じさせること。この弁慶は、玉女(人形)の、次代の立役と
しての試金石でもあった。
玉女は、延年の舞など、洒脱なお
もしろみやゆとりには欠けるかもしれないが、六方の引き込みの迫力といい、弁慶の大き
さ、立役の風格を十分に感じさせる好演であった。
英の弁慶(太夫)。……富樫ならば何の問題もなかっただろう。だが、最も苦しい音域で、たたみかけるような立詞が続く弁慶。息の使い方、声の使い方、30年を超えるキャリアをもってしても、困難な課題であったと思う。しかし、……とりわけ津駒の富樫との丁々発止の問答の、息もつかせぬ迫力を、忘れることができない。三段目語りとしてのステップを、彼は、一つ越えることができた。
清治の三味線が、舞台の全体を率いる。英大夫の言葉を借りれば、「磐石の間」。名手清治なればこそ、初役の太夫も人形も、安心して力を出し切ることができたと思う。